遺産分割協議書と相続放棄

【遺産分割協議書と相続放棄】

遺産分割協議書とは
「遺産分割協議書」とは、被相続人が残した相続財産について、
① 「誰が」「何を」「どれだけ」、相続するのかを決めた文書
② 相続した「資産」の名義変更や解約に必要とされる書類
であり、いわゆる「相続放棄」とは全く意味合いが違うものです。

遺言と同様に家族間の取決め(約束)のようなものなので、たとえ、実際には何も受け取っていなくても、相続の放棄をしたことを法的に証明するものではありません。

「遺産分割協議書」でのやり取りは、書類の作成と提出で済むので多くの方が選択しています。
しかし、実際には何も受け取らなかったとしても「相続放棄」の効力を発揮することがありませんので、負債がある場合は、法定相続分に応じて各相続人が引き継ぐことになります。

もし、「遺産分割協議書」を利用したうえで「負債」を引き継ぎたくないという場合は、それを債権者に承諾してもらう必要があります。
この場合、必ず承諾してもらえるわけでありません。
ご注意ください。

【重要】
法律の専門家の中には、「遺産分割協議書」があたかも「相続放棄」と同じ効力を持つものであるかのように、相続人に説明しているケースがあります。
これによるトラブルも実際に発生しています。

【事例】
(亡)父A
母B
長女C

長女Cは、お酒に溺れ家を出た父Aが70歳で亡くなったとき、長女Cは父Aの相続には関わりたくないと母Bに伝えていました。
長女Cは「晩年は父Aとの交流もなく、もう父Aとは関わりたくないという気持ちが強かった」と話されていました。
長女Cは、父Aには財産はもちろん負債もないと思っていました。誰からも父Aの借金の話しは聞かなかったし、お酒に溺れて精神的にも不安定な父Aに、誰もお金など貸すはずがないと思い込んでいました。

それから数年経った頃、母Bから連絡があり「自宅の名義を父Aから母Bに移すのに、司法書士か作った書類に署名してほしい」とのことでした。
長女Cにとっては、自宅の名義は、父Aが自宅を出たときに母Bの名義に変えてあると思っていたため、とても意外なことでした。
「この書類さえ出せば、あなたは父Aとは関係なくなるからと司法書士から言われている」と母Bから促され、長女Cは、これは「相続放棄」の手続きなんだと思い込み「これで完全に縁が切れる」と思って書類に署名しました。

しかし、それから2年後、信用保証協会から督促状が届き、そこには母Bと長女Cは、父Aの負債を相続していること書かれていました。
長女Cは「相続放棄したはずなのになぜ?」と途方に暮れてしまいました。

この段階で相談を受け、事情を詳細に聞いたところ長女Cが「相続放棄」手続きと思っていたのは「遺産分割協議書」への署名でした。
長女Cに「家庭裁判所」に手続きを行ったか尋ねたところ、それはやっていないとのことでした。

【結論】
この事案では、長女Cは家庭裁判所から「相続放棄」と「遺産分割協議」の錯誤を認めてもらい、改めて「相続放棄」の申し立てをすることができました。

司法書士という法律の専門家が「遺産分割協議」と「相続放棄」の錯誤をするとはとても思えません。しかし、詳しく事情聴取を行い長女Cへの丁寧な説明を行わず、「遺産分割協議」で済ませようとした可能性は高いかもしれません。

この事案もそうですが、「法律の専門家」に任せておけば大丈夫とは必ずしも言えないことは、このようなトラブルが珍しくないということが示しているといえます。

 

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