【連帯保証債務と単純承認】
事例
・父Aは中小企業の経営者
・長男Bに事業承継を進めて途中で急死
・家族は父A、長男B、長女C、次男D
・故人の希望でもあったので、会社は長男Bが引き継ぐことで問題はない
・長男Bは、会社を安定経営するためにも、不動産や預貯金は全て自分に相続させて欲しいと長女C・次男Dに申し入れる(財産放棄の申し入れ)
・長女C・次男Dはこの申し入れに渋い態度を示した
会社を長男Bが引き継ぐことに異論はないが、自分たちが何も相続しないことには納得がいかない
・兄弟の話合いは平行線をたどるが、顧問税理士からの提案で長女C・次男Dはそれぞれ200万円を相続することで決着した(いわゆる判子代)
・以上の内容で「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員で調印した
・それから3年後、金融機関から長女C・次男Dのもとへ、それぞれ5千万円の請求がきました。
【なぜ金融機関から5千万円もの請求がきたのか?】
① 当初の経営者である父Aが、金融機関から会社が借金するに際し「連帯保証人」になっていた。
② 父Aが亡くなった後は、後継者の長男Bがさらに「連帯保証人」になっている。
③ したがって、金融機関は亡父Aの法定相続人である長男B・長女C・次男Dに対し、法定相続分のとおり請求してきた。
【重要】
・②のときに、連帯保証契約は「更改契約」ではなく「変更契約」であった。
・更改契約とは、最初の契約を失効させ新たな契約を締結すること。
・「連帯保証人」を追加する契約を結んでいたので、父Aの連帯保証契約は有効なままであった。(連帯保証人を追加する変更契約)
・本人の死亡により当然に契約解除とはならないので注意が必要です
・会社の債務に対して、父Aと長男Bの2人が連帯保証をしている状態。
・金融機関は一度締結した契約を「取引が継続している間」は、契約を解除することに対しとても後ろ向きです。
⑤ 長男Bが引き継いだ会社の経営がうまくいかず1億5千万円の借金をしていて、事実上の倒産の状態になっていた。
⑥ 金融機関は、1億5千万円を法定相続人に対し法定相続分で請求してきた。
【結論】
長女C・次男Dは、家庭裁判所に相続放棄の申立をしました。
しかし、申立ては認められませんでした。
【理由】
遺産分割協議書を作成した段階で、「単純承認」を積極的にしたと判断されました。
【重要】
被相続人の死亡後3ヶ月以上が経過してから借金の存在が明らかになったとしても、
家庭裁判所を納得させられる「正当な事由」があり、
かつ、借金の存在が発覚して3ヶ月以内であれば、
相続放棄ができる可能性は「高い」といえます。
【条件】
相続人が被相続人の財産を一切受け取っていないこと。
たとえ、「負債の存在を知る由がなかった」としても「不動産」「預貯金」など、
何かしらを「相続する手続き」をしていると、たとえ後から「多額の負債」が発覚したとしても、相続放棄を認めてもらうことは非常に難しくなります。
【重要】
「相続する手続き」 ⇒ 「単純承認」
【事前に相談されていたら】
① 金融機関に対し、連帯保証契約は「変更契約」でなく「更改契約」を申し入れる
契約内容によっては、「免責的債務引受契約」を併せて申し入れる
② ①がだめなら、200万円の金銭は長男Bから贈与してもらい、相続財産については
「相続放棄」の手続きをとる。
200万円の贈与税は安いです。(税率10%)